ポリ画報通信

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ロベール・ブレッソン「罪の天使たち」

あらすじ

 裕福な家庭に育ったアンヌ・マリーは、不幸な人々に寄り添いたいという願いから、元服役囚の身元を引き受けている女子修道院にやってきました。理想に燃えるアンヌは、獄中でも最大の問題児として疎んじられていたテレーズに心を寄せ、端から見てもちょっと不自然なくらい強く入れ込むようになります。他方、何かにつけて世話を焼こうとしてくるアンヌが気に食わないテレーズは、アンヌに「修道院のみんながあなたを陥れようとしている」と吹聴します。

 それは事実ではありませんでした。少なくとも映画の中にシスターたちの陰謀が描かれることはありません。けれども世間知らずなアンヌの天衣無縫に過ぎる言動が噂になっていたことは本当で、狡知に長けたテレーズはこの事実を誇張・歪曲して利用していたのでした。疑心暗鬼に陥ったアンヌは、シスターたちの些細な挙動も看過できなくなってしまい、やがて修道院を追われるほどのトラブルを引き起こすことになるのです。

 修道院を出たアンヌは行方をくらませていましたが、ついに敷地内の墓地で発見されます。行き場を失ったアンヌは降りしきる雨の中で祈りながら倒れていました。余命を宣告されるほど衰弱したアンヌの看護者として指名されたのは、あのテレーズです。淡々と仕事をこなすテレーズの横で、アンヌが口を開きます。自分は声をかけ続けてしまった。テレーズは決して目立ちたくなかったのに、その気も知らないで。テレーズが修道院の門を叩いたあの日、彼女は復讐を遂げてきたばかりだったのだから……それはかつてのアンヌの喋り方とは異なるものでした。ずっと捉え損ねてきたテレーズの心理を言い淀むこともなく、滔々と語るのです。

 時を同じくして、ある銃殺事件の容疑者としてテレーズの存在が浮上していました。捜査の手は修道院へと伸ばされます。

 

感想 

 性格・境遇ともに対照的な二人の主人公ですが、両極的な態度を生み出した原因は等しく孤独にあったということが示唆されています。とすると、二人の修道女を巡る物語は、引き裂かれた一人の人格と、それが統合、救済されるまでの心象として捉えることもできるものではないでしょうか。そしてそのように観るならばこそ、中盤のトラブル、アンヌによる〈二面性の否定〉という象徴的な事件を転回点として、アンヌ自身が消失に向かい、テレーズへと収斂していくより他なかったのではないかとも思えてくるのです。 

 仮にこうした二重奏の物語を同時に引き受けたとしても、なお浮きだって見えるのは、病床におけるアンヌの独白です。これは通常ならテレーズの証言を元にしたアンヌの推理として受け止められるところのものでしょうし、また、映画の中にそれを否定する理由もないでしょう。しかしながらアンヌの確信に満ちた言葉と眼差しは、それ自体が宗教的忘我の最中にあることを指し示すかのようであり、彼女の発言が啓示による賜物なのだということもまた、否定することができない作りになっています。彼女の〈推理〉が、同時に進行する警察のそれと比較してもずいぶん詳細なものである、という点も注目に値するでしょう。あるいは啓示とは、こうした推理にこそ、似通ったものであるのかもしれません。

 

(佐々木つばさ)