ポリ画報通信

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晩秋のカバレット2016 心にビート2016秋

 声・言葉・音楽のパフォーマンスについて、最近みたものの感想など書きたいと思います。

 

晩秋のカバレット2016  絵師 葛飾北斎

多和田葉子高瀬アキ

2016.11.16  シアターX (カイ)

 

 多和田さんが自作の詩のような散文のようなテクストをよみ、高瀬さんがピアノ(時に口も出す)を弾き、それぞれ自律的でありながら関係しあっています。そのセンスが何気なく絶妙です。全部で12のピースといいますかパフォーマンスから成っています。多和田さんのテクストは言葉あそび的な面があり、また風刺的でもあります。今回北斎を取り上げたのは劇場側からの提案のようでした。

 例えば、2番目の『傘をさす/雨のブルース』では、文末がいちいち「~カサ。」という言い方になっています。昔話などで、~とさ、という伝聞の語り口がありますが、それを言い変えたような、語りの紋切り型を異化する語りのように感じられました。内容は、子どもの頃に、自分では雨にぬれても平気だったのに大人から傘をさしなさいと言われていたことと、原爆投下後「黒い雨」から被爆した人たちのことを知ったことと、それらが混じり合った空想的な、黒い雨にぬれないために傘をさすというようなイメージ、だと思います。子どもの頃の思い出にさかのぼった、子どもの不安の記憶、がきこえてきます。それが、~カサ、というパタンの繰り返しで語られると、個人的なエピソードではなく、何かマンガチックでもあるキャラクターが架空の言い伝えを語っているみたいになってきます。カサの繰り返しは不安に対する反復強迫かもしれないと思うこともできますが、実際のパフォーマンスでは、こっけいというか笑えないギャグみたいな、あまりにもナンセンスな感じです。それが面白いと思いました。

 もし、閉じた言説空間(情報環境)が自分にとっての現実になってしまったら、不毛なことだと思います。何を信じて生きているのかということにもなります。意味は一つではないという言葉の面白さは、現実は一つだけではないということに通じ、狂気とも結びつけられますが、それがまた正気sanityのためによいのだと思います。

 

心にビート2016秋 ビートジェネレーション、ビート文学

ヤリタミサコPainter kuro、後藤吉彦

2016.11.25  Café ★ Lavanderia

 

 ヤリタさんは今年『Ginsberg Speaks』という本を出されています。この本のタイトルは、『ギンズバーグが教えてくれたこと 詩で政治を考える』と続きます。それに関連したヤリタさんの朗読とトーク、kuroさんの自作詩劇(ギンズバーグと関連したもの)朗読、後藤さんのサックス演奏(ヤリタさんとのセッションなど)、がありました。

 今回は、ギンズバーグ(1926-97)とボブ・ディラン(1941-)との交流の逸話や共演の音源が紹介されたりもしました。なぜか般若心経を朗唱?していたり(1964年)、ギンズバーグの『Vomit Express』 (ゲロ急行)という詩をうたっていたり(1971年)。ギンズバーグは、『Masters Of War』(戦争の親玉)を聴いて、ディランが気に入ったらしいです。その訳詞の朗読もありました。

 また、YouTubeから、ギンズバーグが『Put Down Your Cigarette Rag (Don’t Smoke)』という詩を早口でまくしたてているライブをみたのですが、don’t smokeという早口の繰り返しが途中で別の語の繰り返しにスリップしていきます。dope、nope、hoax、choke、cloak、suck、cock、等々、繰り返しが入り混じり言葉が紛れ込み(それは私は英詩のプリントとヤリタさんのお話しから分かったのですが)、観客は盛り上がり、それを映像でみているだけでも伝わるものがありました。このような声と言葉の活動状態が生そのものなのだと思えてしまいます。宗教的たかまりに近いものがあるような気もしました。ヤリタさんは音声詩としてきくこともできることを示唆されましたがそれも自分にとって発見になりました。

 

(原牧生)