5月(夢の作業と俳句)
睡眠中の夢を起床後ざっと記述して、それから夢を俳句形式でいいあらわすという試みを続けている。夢の全体をいおうとするのでなく、夢を思い出して考えて発見できたこと、いいかえればその夢をどう発見したかということを書く。その夢から何を取り出すか、と同時にそれを言い当てる言葉・言い方をみつけられるかどうか。俳句は、オーソドックスな俳句らしさというのはあるが、短い中でいろいろなことができる形式でもあると思う。
2019年
10月
14日 欠けていたパノラマ塗り絵の男の子
微笑そのひとと名前が同じひと
棚からストリートいってみるものか
15日 便器にうずくまるひと分裂うむ
公園のトイレも掃除するところ
モップ突っ張る横でやらされてる子
17日 自転車リレー自転車おくところなし
19日 動いてる音を聞かせる女の子
本から滴る床を汚している
夜の彼方大川橋のマックで
22日 あとではなくあっとで繰り返し今
24日 読み合わせ返らぬまま帰る仕度
25日 寒イカのびん詰め明晩寒いか
昨日から下向き露出する切身
26日 船室そこは高校生ばかりで
27日 頭をなでうぬぼれさする手の平
28日 同じ人に見える人は同じ人
同じひとに見えないひとは変わった
11月
1日 かすらぬよう離れすべるように行く
2日 されてると意志がゆるむと医師がいう
3日 ひげそりできずつまんではさみで切る
転覆しても大笑いそして消失
すれ違ったところが後ろになって
4日 先取りした権利かき混ぜて曇り
5日 話したような聞こえているみたいな
知らない人とひもは輪に結ぶかな
6日 うつろな体をおおえる木の体
傘をさしてトイレで雨にぬれても
7日 白い器白い骨のプラモデル
知りたい人らに食わせ物を食べて
8日 棒になった浮浪児つま先立ちで
人々とお金持ちの家に入る
9日 亡くなった人が待つ部屋に訪れ
9日 年が分からぬ顔の話を母と
10日 見られたくない出来事はその始末
11日 洗い物するときなのに亀が出る
12日 その人の物がここにある手にする
13日 パイプライン的パイプ標本的
14日 このまま埋まる中でもう目玉焼
枝葉飾りのほこり払いここまで
15日 湯がさめぬうちお茶漬け出さなければ
16日 自作楽器で批判を歌うディラン
いなかったところがいたあとのかたち
けがれにふれることをずらしてほめる
17日 隠しきれずまた歯医者嫌でもない
18日 秋の赤は沈うつの色だそうだ
19日 伸び縮みねじれる糸の束楽器
20日 手が拾う人構文の切れ端に
21日 不在の部屋今ではないものがある
22日 夏の野を制するものは下を見よ
食べていれば何でもおいしいと父
絵とハングルの新聞を渡される
たすけるように動かされ横切って
23日 古本漫画の家が祖母の家に
24日 よし分別その他はその他でよし
25日 消えたトイレがカゴとして現れる
27日 ふるえすぎ立てない人は座らせる
28日 考えていうつもりで考えない
29日 車窓から見る青空かすれている
30日 食べ残り口から出したものお菓子
2019年
12月
2日 宙にずり上げてきて端のは重い
3日 角度が速度それがかわって国土
4日 ごみのようなもの捨てる前に食べる
5日 曲がるところ見つける夜の小道を
親きょうだい歌舞伎のような白塗り
6日 自動車で階段下り外に出る
本立ての本にやかんで湯を注ぐ
7日 人と話しても答は出ないソロ
8日 野菜を切ろうとしてクラスになって
黄色い蝶の群れが頭上を過ぎる
9日 表示してないパネルだけ光ってる
10日 資料をメモ次は米研ぐことから
カーテン引き過ぎ反対側が開く
11日 一行朗読せよ二択で提示
白い疑惑赤い疑惑いいかえて
13日 広がり生えるまつ毛の毛先を刈る
14日 どれでもいいといわれても取り返す
空間うがつ道具が見つけられる
15日 横線で直されたテーマは何に
17日 今行くところで別に行ってるけど
19日 メロンパンひっくり返して焼くとか
床下から公園で蟻がたかる
20日 焼魚いなくなる人いなくなり
みかどうなじを干物でなでる儀式
21日 時間前長い金属管を吹く
22日 世界地図帳乱丁で落丁で
24日 空のひつに布老人たち眠る
25日 やわらかい丸太の上は立てなくて
準備途中無人の会場をゆく
26日 ひとの名前を書いて字を確かめる
27日 ふすまはパーティションではない空間
28日 何もかもどろどろにおいしいおかゆ
30日 ガムテを縦に切って使いましょうか
背中に仏像の絵働く窓辺
31日 言うはずのことを忘れる空に黒
年末に誰かが捨てた木箱たち
風もないのにたこ揚げ狭い空地
2020年
1月
4日 ひもかける手品の足引っ張る口
5日 犬の夜ふんで引かれる線を見る
こわされてクモは優美に枝を上る
6日 新聞と新聞紙の束を捨てる
7日 こぼしながら生卵吸う勢い
8日 農場の仕事勧める文字の声
9日 二つのメロディー二人で歌ってる
10日 止まらない車ブレーキ踏み続け
11日 書き手の名前だけかすんで読めない
ひとの採血のとき感じる痛み
12日 窓がなく動き始めてドアが開く
このあいだヴェイルだったかもしれない
13日 紅茶がはいっている四角い缶に
姉らしくないが姉なんていたっけ
14日 追い抜いてレジの後ろに来てしまう
もう終わりだがカレンダーを見直す
15日 跳びはね踏み鳴らす衝動近くで
18日 押し売りが子どもに代わり部屋消えて
20日 同窓生たちの今もうひとつの
22日 狭く迫る壁と壁にはさまれて
23日 貧しさによってお金を取り返す
24日 更新されない手帳の書きなぐり
くちびるも退けられるひとを見る
25日 知らない歌のカラオケ少し歌う
頼もうとして違う人の名で呼ぶ
26日 消しゴム手彫りそのひとの手がふれる
(続く)
(原牧生)