ポリ画報通信

「ポリ画報」の活動、関連情報、ノート

10月(芸術と個人主義)

Hideto AIZAWA –Relief and Sculpture- 相澤秀人展     ( kaneko art gallery )

 

 わりとシンプルな形・色が組み合わさったレリーフ又は彫刻の作品群。木製でサイズは小さめで、角のとれた親しみやすい感じで、クラフト的な仕上がり感といってもいいかもしれない。もっといえば、抽象的な木のおもちゃ、教育玩具的な感じも連想される。

 ギャラリーは、いわゆるホワイトキューブとはちょっと違う。壁面は白いけど純白ではなく、照明もそうで、そのため住宅の中みたいに感じることもできる。ギャラリーのオーナーは作品のこともギャラリーのことも気さくに話してくれる。ギャラリーとしては、普通の家の中にアート作品があるようにしたいので、家の中の壁面に作品がかかっている感じに見える展示の仕方ということも考えているようだった。普通の人に買えそうな価格が付いていたと思う。そう考えると、これらの作品はそういう狙いと相性がいいと思う。

 このギャラリーは、以前は京橋にあって若手向けの貸画廊もやっていた。私が学生の頃そこで友達と展示をしたこともあった。現在は横浜市鶴見にあって、オーナーは以前のオーナーの息子さんということだ。ちょっと感慨深い。以前とは変わっている今の時代に、現代美術のあり方(作品のあり方や社会的受容のあり方)はどのようにありうるのか、どのようにしたいのかを、このように探られているのだなと思った。

 

鶴崎正良新作展 (路地と人)

 

 新作である絵画の展示(・販売)が主だが、鶴崎氏は詩や小説も書いていて、それぞれ小さな本にして展示・販売されている。今回「書簡集」というのも加わっている。絵は風景(阿蘇山など)や家屋(古い倉庫など)を描いた写生的具象画。堅実な構成(構図)で色彩は何となくグレーがかった抑制的な印象だった。高校の美術の教師をされていたそうだ。絵の方は、表立って人に見せ(られ)る仕事、社会的立場のある表現だと思う。詩や小説は私的領域にずい分入り込んだ表現になってくるが、文学形式という枠組みで守られている。しかし書簡集は、手書き文字がそのまま印刷され、気持ちにまかせてそのまま書いたような言葉で、こんな恥ずかしいことを人前に出して大丈夫かと思うようなところもあり、これらを本にしたこと自体何かすごいなと思った。展示の企画や本作りは「路地と人」メンバーである鶴崎さんがしていて、二人は親子だ。今回プライベートな手紙まで目を通して、展示されたもの全体に一人の生きざまがあらわれているのを感じた。こんな生き方もありなんだと思えて、人生観が少し拡がった気がする。

 

豊嶋康子個展「前提としている領域とその領域外について」( Maki Fine Arts )

 

 円形のパーツに扇形のパーツが貼り付けられていて、それが重ねられ(作品によって5~9層になる)、円形パーツの中心にボルトが通って回転軸になっている。彫刻とかレリーフとかいうより、壁面に作品が並んでいるさまは、回転する機械の系列とでもいうような、独特な空間の作動状態を感じさせる。作品一つ一つは自律性がある。作品それぞれのタイトルが、作品に名前が付いてるという感じだ。そして展示全体として、全体化されない大きな機械(機械たち)のようでもある。

 作品タイトル(「地動説2020」シリーズ)からすれば、天体モデル、それぞれの惑星軌道をもった星々の銀河にもみえる。

 そして可変領域。アナログメーターのように可動な円グラフとかの組み合わせ、その組み合わせは無限だ。領域は色分けされていて、自然塗料が使われている。色彩の美しさが作品をいっそう魅力的にしているといえると思う。

 回転機械、宇宙、無限の変化。

 

(原牧生)