6月(夢生活)
睡眠中の脳の活動が夢としてあらわれる。内臓など諸器官は、人が眠っているときも覚めているときも、ひとりでに活動している。生きるという目的に適った活動をしている。脳の活動もそうだろう。そういう点では、毎日体温を測って値を書くようなことと、夢を思い出して書くことは連続している。
昨晩は、ビニルの浮き輪のようなものを頭からかぶって頭を洗う、横に別の人がいてその人の頭を洗う、という夢をみた。このことを思っていると、二日前にある人がシャンプーがもろに目に入ったという話をしていたのを思い出した。こんなことの記憶が夢になるのだろうか。でもそういう気がする。脳はひとりでに思い出したいことを連想的に思い出し、それだけでなく都合良く換えていたりするのだろう。そういえばシャンプーハットというものがあったと思う。そしてハットという語には、昨日思い当たることがある。だから何なのか説明しがたいが、自分のことなので自分ではそうかと思う。
夢を俳句にするときは、そういう経験レベルの意味のためでなく、言葉をつくるために言葉を工夫する。いかに長さの制約を活かすか、いかに夢の説明をしないですますかなどを考える。視覚的に印象的であったりいかにも変わっていたりすることを、いちいち描写しない言い方を考えることもある。そして大事なのは定型の音数で自由律的な韻律感を出すことだ。夢になる記憶には社会的なこと、例えばいわゆるコロナ対策の影響が出ているものもある。また、個人的に古い記憶の雰囲気、イメージと感情が一体化した記憶のようなものもある。夢の深さの違いといえるものがあると思う。
2020年
2月
2日 新聞の言葉のようで書き込みだ
3日 殻をかみ砕く一粒確かめる
5日 できそうに思えぬ企画どう言うの
あなたは誰でしたっけと声かかる
7日 出来事は隣に起こる音を聞く
10日 人が群衆になる時いつのまに
12日 虫たちが飛び回る春の密室
透明裸電球光わずか
13日 水洗から食べ物出て皆食べる
15日 教室無人小さな机と椅子
つながらない差し込むとこ違うから
17日 助成取れと言われたと女性が言う
三人の外れに座る誰か来る
18日 大ひらきの足運ばれひだが巻く
19日 口から正方形金属のかす
20日 古い記事その人のこの頃思う
21日 やわらかな重さパン生地のたうって
22日 来られては困ったけれどうれしさも
23日 開いた口から話すパンの袋
24日 見ても見られても眼差しは裏切る
25日 ゴーンという大通りがパリにある
27日 あふれ出すひじき炒め煮床はあお
28日 内向きにマイク通した耳ざわり
29日 細枝の幼虫動く葉は遠い
白い部屋裸足の足跡ひとすじ
3月
1日 地図、印、私たちの名前の場所
4日 のどを鳴らす練習またできるかな
5日 調べ物なんてしてこなかったから
高円寺おーい数式授賞式
6日 道をたずねたらまた間違えていた
残骸の車排泄の鉄くず
合宿終えた人たちの輪に入る
7日 ハムスターぎっしり動き回る顔
ハムって今もあるんですねと話す
8日 シールが多く字が少ないノート
9日 手作りの袋はらんだ猫が来る
10日 画像と物体持って人形劇
12日 独語する彼の声色変調す
13日 つたない手てきとうか音楽の中
15日 言われたように坂を上るとあった
16日 言われない隣の人に気付いたら
17日 中庭的近道裏から入る
18日 少しずつ違うお菓子の作り方
19日 愛想良く話す向こうでは検査
20日 一人二千円そんなものだろうか
21日 ぶら下がる電燈を引く仕掛けあり
22日 他人の間子どもに話しかける
23日 部屋に来て踊り出す人ありがとう
24日 東洋堂治療院子どものあと
25日 黒ヤモリ二匹が酒の中にいる
27日 ほめてもらい物の言葉かけられる
蒲田とカーテンの陰の女たち
28日 皆で逃げる木造階段上る
29日 流し台の中でしゃがんでいた人
2020年
4月
1日 参加しにきたところが流れている
銅版画をプレゼンする銅版画
2日 一仕事七万円の話聞く
3日 詩人の家大きい横から見ても
4日 チューリップ花びら模様見て描いた
5日 公園の山道歩く固い土
6日 科目迷う少年にじゃあ社会だ
パティ・スミス歌う弦ぎざぎざし
7日 寝過ごした失敗さらに欠勤か
8日 肌に寄せてくるものもう離れよう
9日 地下道行く隊列手に手に光
対戦待ちすべるローラーブレード
11日 音空間演出距離で録音
つかまえたって何ですかその通り
13日 取り調べ入る涙の里のこと
映画初日迎え行く女性達と
給茶機がお茶漬けの味海苔あられ
14日 胸起こして歩もう横見れば花
15日 池袋でカンディンスキーのカンで
16日 上った階段陰遡る部屋
17日 参加型企画見ていて眠くなる
18日 夜中寝ぼけながら腹筋運動
19日 風に飛ばされた本裸で拾う
20日 普通の点数隠す良い点数
21日 いつの間にか窓辺手伸ばして拾う
22日 撮ったのは自分なのか誰なのか
23日 ふさわしい人だったのかもしれない
足重く間に合わない路で雨も
24日 まだ顔も洗ってないと声がする
25日 近付いても応えは分からない向き
27日 こう見えてやることがある私達
28日 絵の奥から穴トンネル工事中
教会を見るそして追いはぎを見る
29日 面接で憲法きかれ落とされる
雨の中水鉄砲で水かける
30日 外国のホテルにいるように遠い
集まって弧の外側を向いたまま
5月
1日 締めても閉まらない古板戸いじる
再会の集まり重い荷は椅子に
2日 移り行く地図東京後の東京
進めたこと止められ話を伸ばす
3日 田を作るか畦を作るかみたいな
ホームラン打った人みんなにタッチ
4日 ローラーの間でボール転がらず
問いかけて答は軽い種明かし
5日 こたえずに自転車に乗りとんでるよ
ブルガリア女声合唱乱れたら
6日 出かけたはずが別のイエにとどまる
がらんとした外でちらほらあつまり
7日 徹子の部屋電話だけで話してる
8日 あやうい運転交代しない夜
9日 裸足だついて行きかけサンダルはく
11日 フェリーご案内切断の一揺れ
12日 叩きつける繰り返す無駄な怒り
他害自傷取り違えて語るとは
13日 合唱をつくるネット上の会社
雨の中桜の木まで何秒か
15日 ポップスワンダーウーマン不採用
16日 なだらかに緑広がる北海道
階段と部屋の間二重網戸
モデルハウスご飯食べだす父たち
18日 一人の部屋ふとひらけて父がいる
開かれた漫画なぜかまた立ち読み
19日 送り先そこでなければ別のとこ
20日 水面魚カワウソの絵を描いた
床に白い線遊びのための線
22日 水が増え川が激しく流れてる
24日 行きかける奴から話をきき出す
先っぽの形二人で描き直す
25日 二つもらえても一つでいいものは
26日 展示物に父が書き込む感想か
作品忘れてきちゃったという声
『銀の糸』本が一冊残された
28日 自分の歳を十年サバ読んでた
絵を描いた服がまだまだ広がるよ
29日 後ろに倒れながら前に駆け出せ
群馬の町に引っ越す話をした
30日 地面にぐるぐる動いた重ね描き
非難してさとされた人眠る4時
31日 コマ回し坂道下る回るコマ
電話からはみ出すOLメモ書き
(原牧生)